特別でなくて良い。
「普通」の感覚を大切にしてほしい。
子どもから年配の方までが楽しめる
漫画をつくる
青年誌を専門とする出版社から秋田書店に転職して約4年、希望していた「週刊少年チャンピオン」の編集者としての仕事に日々やりがいを感じています。青年誌との大きな違いは、少年誌の方が想定読者の裾野が広いこと。青年誌は基本的には大人向けをターゲットに漫画づくりをしますが、少年誌は子どもから年配の方まで、幅広く読まれる媒体です。だから、大前提として子どもでも理解できるわかりやすいストーリーや言葉にしなければなりません。とはいえ、上の年代の方が「子どもっぽい」と飽きてしまわないよう、慎重に表現を選ぶ必要もある。そういったバランスをとる難しさもありますが、一方で、「それだけ多くの人に読んでもらえるんだ」「世の中に響いているんだ」という手応えもあり、非常に充実感を得られる仕事です。
電子作品の可能性
2023年に立ち上げた電子増刊「チャンピオンBUZZ」においては責任編集の立場として、台割の作成やディレクション、企画の精査など、新しい漫画を世に送り出すべく邁進しております。今はまだ少しずつ作品を増やしている段階で、2024年中にはもっとコンテンツを拡充する予定です。電子の漫画は紙に比べて自由度が高くて面白い! たとえば、紙なら1号に掲載できるページ数も決まっていて、そうそう簡単にカラーで印刷できるわけでもありません。電子ならそういった制約をうけずに、漫画家さんが望めばページ数は5ページでも30ページでもよく、なんなら全ページカラーでもいいのです。もちろん予算の都合もありますが、体裁を考えずに純粋に漫画の面白さだけを追求できるのが電子の魅力です。それから、読者目線では手軽に読めるという良さがあります。紙の「週刊少年チャンピオン」は400ページ近くあるので持ち歩くのは大変ですし、混んでいる電車では読みにくい。電子ならスマホでさっと楽しめますよね。
漫画づくりの未来は明るい
私が新卒で就職した年は2008年。電子作品はほとんど存在しない時代でした。書籍や雑誌の発行部数がどんどん減り始めていた時代で、先輩方からは「よくこんな斜陽産業に足を踏み入れたな」と言われたりしました。でも私は漫画が大好きだったから前職の出版社に入社できて嬉しかったし、先輩方に悲観されたことが悔しかった。その後、電子版が普及し始め、今度は「電子のせいで紙の売り上げが落ちる」と指摘された時代も目の当たりにしました。それでも、私はずっと漫画の未来に大きな期待を寄せていた。なぜなら、すでに申し上げたように紙に比べて手軽に読めるようになることで、トータルの読者の分母が増えると思ったから。電子なら、海外の読者に読んでもらうことだって簡単になる。ですから、私は「チャンピオンBUZZ」を通じて電子作品をどんどん世に発表していくことに対して、期待でいっぱいなんです。漫画家さんにとっても、読者にとっても、漫画の可能性をぐんと広げてくれるはずです。
普通の人こそが編集者に向いている
漫画編集者は特殊な仕事なんだろうと、学生時代は思っていました。でも、今はバリバリ活躍している編集者も、編集者になりたての時は右も左もわからない若者だったはずです。私もそうでした。10年以上経験してみて思うのは、漫画編集者にとって必要なのは「普通の人」が感じる喜びや悲しみを共有できる気持ちと、それを言語化する能力だということ。秀でた一芸やスキルも大事ですが、日常に溢れた普通の出来事を、普通の感覚で愛でることができる人は、きっと数多くの読者と共感できる心を持っているのではないでしょうか。というのも、一人でも多くの人から愛される漫画を目指したり、あるいは世界に向けて漫画を送り出そうとするとき、その漫画は人種、性別、年齢、貧富の差といったあらゆる要素の一番真ん中にいる人たちに向けていくはずです。その「真ん中」の感覚に共感する能力がある人ほど、編集者に向いていると私は考えています。だから、学生の皆さんは、特別になることを目指さなくていいと伝えたい。さまざまな「普通」の感覚を持った皆さんの入社をお待ちしています。
私の仕事道具
愛用の編集道具3点セット
この定規、テープ台、級数表は、新卒でこの業界に入ってから15年以上使っている、私の業務に欠かせない道具です。定規は「刷り出し」といった見本刷りの作成や、サイズの間違いがないか色校正を切り出したりする際に使用します。若手の時は曲がって切り出してしまい先輩に怒られたりしました。テープ台は、校正指示の付箋をテープで固定する際に使用、級数表はフキダシのセリフの大きさを指定する際等に使用します。どの道具もこれまでの思い出を共にしてきた戦友のようなものです。