いい漫画編集者ってなに?
ヤングチャンピオン編集長と
各誌の漫画編集者による本音座談会!
津田 小百合
2018年入社
プリンセス・ボニータ編集部
前職では男性向け漫画に携わっていたが、女性向けの漫画がつくりたいと転職を考える。秋田書店は老若男女オールジャンルの漫画を刊行していることから、自分の人生の変化に合わせて将来いろんな作品に関われることに魅力を感じる。
梅澤 丈文
1999年入社
ヤングチャンピオン編集長
1年先に社会人になった地元の友人が他誌の漫画編集者となり、楽しく仕事している姿に感化されて自身も漫画編集者を志す。スーツではなく私服で仕事できることにも魅力を感じたという。当時、「グラップラー刃牙」の大ファンだったことから秋田書店に入社。
中村 亮介
2012年入社
月刊少年チャンピオン編集部
中学生の時から読んでいた雑誌が「チャンピオン」と「ジャンプ」だったため、どちらかの出版社に勤められたらいいと考えて就職活動をしたところ秋田書店から採用される。チャンピオンで特に好きだった作品は「刃牙」シリーズ。
01
僕は入社10年目ですが、月刊チャンピオン編集部では一番年下なのでいろんな雑務も担当しています。ページの余白にある柱を書くなど、「編集者ってこんなこともやるんだ!」って入社するまで知らなかったです。これから入社して漫画編集者になりたいという人には、プレゼントページとか記事ページとか次号予告とか、「そういうのもつくる仕事なんだぜ、そんな華やかな仕事じゃないぞ」って、今から強く言っておきたいです!
大変だよね、画像を揃えたり、文章を載せたりしなければならないし。
入社前までは漫画家さんとしゃべりながら漫画をつくる仕事だとしか考えていませんでした。けれども実際はパソコンに向かってする仕事が多いです。
そうです、そうです。「あと3文字足りない!」とか。漫画雑誌といってもいろんなページがあるから、「これもつくらなきゃいけない」ってすごくありますよね。
昔は、対談記事の文章もレイアウトもすべて編集者がやっていたからね。版下っていって写植の指定もやっていた。俺が入社した年ぐらいからMacが導入され始めて、そこからデジタル化されてきた。
漫画をつくっているというか、雑誌を必死につくっている感覚に近いですね。
さらに、SNSを使った仕事とかもデジタル化で増えていきましたよね。私も漫画作品の進行に夢中で、雑誌の記事ページの進行を忘れていたことがありました。編集部の先輩方のサポートで無事なんとかなったのですが、血の気が引きました。こんな感じで毎月ヒヤヒヤしています。
僕も、メチャクチャあります。
いやいや、中村は本当に仕事が遅いよね。ギリギリまでやらない(笑)
僕はダメな人間なんでというか、なかなか腰が上がらないんです。しっかりしなきゃいけませんよね、他部署の編集長にまでバレてるくらいですから。それでも、「こんなダメな自分を、みんなはそのまま愛してくれているんだ」って、勝手に思い込むことでメンタルを保っています(笑)。会社の人はみんなやさしくて、「中村は転職したら生きていけない」って言われるんですよ。
俺もやばい失敗談ならたくさんありますよ。それこそ、これはもう会社を辞めるしかないな…ぐらいな。
ええ?!どうやって立ち直ったんですか?
しょうがないと思うしかないよね。当時の社長に編集長と謝罪に行くじゃないですか。当然、厳しいペナルティーも覚悟していたんです。「すみませんでした!」と頭を下げたら、社長から「やっちまったもんはしょうがない。損した分は取り戻せばいい」って。
おお〜!!
普段は怖くて細かい人なんだけど、そういうシリアスなミスに関しては小さいことを言わない。今でもそんな風土だよね。
02
担当作が目の前で売れた瞬間を見た時です。目の前でお客さんが本を手に取った時は、「レジまで持っていってくれ〜!」って心の中で念じました。すると無事に購入してくれて、ものすごくうれしかったです。皆さんも発売日当日とかに本屋さんに行きません?
もちろん気になるけどあんまり行かない。自分が行ってもなにもできなくて歯がゆくなっちゃうから(笑)。
僕も行かないです。
私、発売したグッズを街中で持っている人を見かけた時もうれしいです。
すみません、周りを見ずに生きてきたのでそんなシーンは経験ないです(笑)。僕は、中高生の読者だった頃から大好きだった漫画の作家さんといっぱい会って、いっぱいご飯を食べて、いっぱいお酒飲んで話ができるのがうれしいです。タイムスリップして過去の自分に教えてあげたいです。
先生とご飯食べている時が一番楽しいよね。俺も、担当させてもらってた新人の作家さんが当時はまだお金がなかったので居酒屋によく一緒に行って安いホッピーあおってさ。その後、先生がだんだんと売れていって、「今夜は俺に払わせて」と初めてご馳走していただいた時が一番うれしかったよね。結局、カニを食べに行ったんだけど、先生の口のまわりがどんどん赤く腫れていって、「もしかしてカニアレルギーじゃないの?!」って言ったら、「大丈夫だと思ったんですけどね」って。「それやばいよ!」と(笑)。
梅澤さんにカニを食べさせたかったんですねえ。
そうそう。なので、彼の分も俺がもらうからラッキーだった(笑)。いい男でしたね。
03
メンタル的な回答で申し訳ないのですが、しいて言うなら自分もその作品を大好きなこと。そして、読者にこの作品を知ってほしい、読んでほしいという気持ちが大事かなと思いますが・・・。私が知りたいです!
僕もみなさんに聞きたいです。ただ、作家さんと話をしている時に、「それいけそうですね」って瞬間が自分の中にある気がします。それをいかに取りこぼさないようにするかがポイントかなと思いますね。
難しいよね。人によって面白さの基準は違うし、愛されるといっても、「愛情の反対は無関心」なんて言われるように嫌われることもある意味愛されているのかもしれないし。中村が言ってるように、作家さんと話をしていると作家さん自身でも気づいていないことがよくあるんだよね。そこに潜っていかなければならないのだけど、そのためには信頼関係が大切。作家さんが描きたいと思うことって自分の恥部やトラウマになっていることが多いので、そこまで他人にさらけだすためには編集者として自分を受け入れてもらい、作家さんと協力して一緒に潜っていくしかないよね。
私は、作家さんと仲良くなりすぎて逆に言えなくなることもあります。距離感とか姿勢についてバランスを取ることが必要かなって。
人によるよね。この先生なら仲良くなったほうがいいとか、ちょっと距離を取ったほうがいい先生もいる。女性誌は意外と大変そうだよね。
女性誌に異動して、細やかな気遣い度はアップしました。
うちの編集部にも女性誌から来た編集者が何人もいるけど、毎回お土産を持っていくもん。俺とか中村は、少年誌という雑な編集部出身なので、作家さんに手土産を持っていくという発想が薄い(笑)。
あっても、近所の駄菓子屋さんで買うとか(笑)。
04
いい編集者ってクリエイティブな感じなのかなって入社前は思っていたんですが、今は社会人として「普通にちゃんとしている人」じゃないかなって思うんです。挨拶やお礼が言えるとか、ちゃんと会話ができるとか。僕はいつもちゃんとした人間に生まれ変わりたいと思って生きています。あとは、健康で元気な人!
健康は大事ですよ。それと、挨拶や会話もそうだし、一緒に悔しがったり、悲しんだりできる常識人であったほうがいいよね。じゃないとズレていく。世の中の普通のことを知らないと売れるものや一貫性のあるものができない。
ヤンチャンさんは、あえて普通の会話をしようとしているじゃないですか。新聞を読んで、みんなでそのことについて話し合っていますよね?
選挙間近になるとね。みんな支持政党が違うので、意見を出し合ってる(笑)。
政治だけではなく、野球や相撲の話も隣の部署にいて会話が聞こえてきますよ。
うちの編集部はみんなバチェラーの話をしています。面白い漫画の話もするけど、基本はエンタメ系が中心で政治の話はしませんが。
ヤンチャンの編集部には、論客が結構いるんですよ(笑)。
そういえば、ヤンチャンの編集後記ってすごくないですか?!なんか、明確な文章を書く方がいますよね。いつも読み応えあるなって思いながら読んでいます。
あのコーナーのファンの方が5人ぐらいいて、ファンレターも来るんですよ(笑)。
私は、いい編集者になるには好奇心を持ち続けることではないかと思います。世相に目を向けることも大事ですし、自分の好きな作品に入れ込むだけではなくて、読者に目を向けることも大事じゃないかなって。それと、作家さんが話していることと、本当の思いが違うのではないかと感じることがありますが、それに気づくことができることも大事かなって思います。あとは、とにかくほかの編集者のすごいところを学ぶことですね。
いろんな意味でフラットな人がいいよね。フラットであれば、どんな漫画でもつくれるし、どんな作家さんを担当することもできるから。あとは体力。精神的にも肉体的にもタフならいっぱい仕事ができる。2人ではなく4人の作家さんを担当すれば、知見がどんどん溜まって倍のスピードで一人前になれます。ヒットする確率も、若い時の仕事量と比例するのは間違いないんですよ。
05
僕は、編集長として大まかに指示はしますが、細かいことはそれぞれに任せています。うちのスタッフはすごく優秀ですし、そんなに「がんばれ」って言いたくないじゃないですか。仕事って、やるのが当たり前っていうか、のびのびというか、勝手にやるもんだと思っているから。
「勝手にやる」というのはその通りですね。うちの会社はノルマとかないじゃないですか。何もしなくても生きていける会社ですよね。もちろん、気持ち的に居づらくなるので勝手にやるしかない。ただ、それをどの編集長も認めてくれます。「お前、こんなことするな」って言われたことはないです。
私も自主性を大切にしてくださっていると思います。
そういう会社の雰囲気とかって代々、上司や先輩から受け継がれたもの。会社の上層部の方々が残してくれたすばらしい財産です。社長、ありがとうございます!これは是非、カットしないでください(笑)。
(笑)。でも、会社は言えばちゃんと変えてくれます。テレワークしやすいようにパソコンをすぐに配ってくれたりとか。時代に合わせてちゃんと変化しているし、働きにくい環境ではないです。
確かに柔軟です。それと、みんな気にかけてくれます。悩み事や困り事があれば相談に乗ってもらえますし、感情をシェアしやすい環境です。
同業他社と比べても働きやすいよね、勤務時間とか。結局、挑戦しやすい環境というよりも、挑戦する人が多いかどうかです。老舗の出版社なので新しいことをやらないと成長しない。若い人が「これやりたい」と言ってくれると動きやすい。俺も意見を蹴られたことはないよ。
学生さんには、ぜひ面白がって面接に来てほしいですね。秋田書店の漫画を読んでこなくてもいいです。元気で明るくて普通に会話できたら楽しいです。特殊なことをしていなくてもよくて、そのままのキミでいい(笑)。
私は、自分と違う人から刺激を受けたいので、いろんな人が入ってくれるといいなと思います。いろんな話を聞きたいです。
俺も普通の人がいい。「こいつ、飲みに連れていきたいな」って思える人。別に特殊な経歴や経験は関係なくて、面接では「この人が先生の横について、どんなリアクションをするか」って予想しながら見ているんですよ。別に明るくなくても寡黙でぽつぽつしゃべる人でもいいし、そんな人が合っている先生もいます。だから、そのままで来てくれればいいですよね。それと、出版社って楽しそうに見えるけど、やっていることは普通の仕事です。だから面接の時は変に気負わず普通に会社に来てもらって、逆に会社を値踏みしてくれる感じのほうがいいかもしれない。変にアピールすると空回りしちゃうし、見ているほうも意外とそういうところを気にしちゃうからね。