アレがコレで最高にエモい!!!!
宇宙人の外見を頭に浮かべてほしいのだが(タコ型の方を浮かべている貴方は、じゃないほうを想起していただきたい)それは未来から来た地球人という考えがある。技術が発展した未来にて、よく使う頭や目は肥大化する一方で、便利になりすぎたゆえに使わない指が消え、体の機能が簡略化しツルピカ見た目になる…。というわけだ。そんな現象が自分にも襲い掛かっていると実感した1年目の夏、私は空虚な自信だけがあった。
秋田書店での面接の際にも自身の支えになっていたアイデンティティとして、私は普通の人よりは何倍も多くの漫画を読む学生時代を過ごしていた。メジャーなものからマイナーなものまで時間があれば漫画を読みあさり、数々の名シーンを全身で浴びていた。
だからこそ初めて先輩と一緒に、漫画家さんのネーム(作品の設計図のようなもの)を読んで意見を喋り合うことになった1年目の夏の日、自分の積み重ねてきた経験をぶつけることができるぞ!! と無邪気にワクワクしていた。
昼食を食べ終わったころだったと思う。漫画家さんからのネームがメールに届いた。すぐさまコピー用紙に2部印刷して、先輩と並んで読みこんだ。
その後、私が先に意見を言うことになり、フンフンと鼻息あらくしていた私の口から出た言葉はひどいものだった。「良かったです」「面白い」「アレがエモくて~」。ふんわりとした言葉が口をついては消えていく。
誤解ないように注釈を入れるが、そのネームが言及しづらい内容だったとかでは全くない。むしろ自分の心に刺さるものがあった素晴らしいネームだった。ただ、その自分の心に刺さった気持ちを言葉にするとなると、モヤがかかって上手く言語化できないのである…。
色んな実体験・創作物を味わっていたのに、その1つ1つで感じたことは確かに違うはずなのに、その時の感情を「エモい」や「最高」など大雑把な一括りの感情にフォルダ分けしていた過去のツケがきてしまった。便利すぎる言葉を使いすぎて、いや使われすぎてしまい、使わない言葉の数々が腐り落ちてしまっていたのだ。
決まった関係性、仲間内でしか通じない言葉、文脈で喋ることや種々の感情をまとめて「エモい」に集約してしまうことは一概に悪いことではないし、言葉の省略は進化の側面でもある。ただ、漫画という媒体を通して読者の方々に感情をぶつけることをしたいのだから、便利な言葉ばかりに頼らず、不自由で遠回りになってでも自分の内面をまっすぐに言語化出来るようになっておきたいものだと思う。
田中 良樹
2021年4月 入社
同年6月 週刊少年チャンピオン編集部 配属
幼いころから漫画が大好きで漫画に携わる仕事にしか就きたくなかった大学生時代。
就活先は出版社数社と、保険としての公務員試験のみだった。幸運なことに秋田書店に入ることができ、今現在に至る。