憂いなしと嬉しいって語感が似ている。

2021年4月、快晴。就活面接の時に幾度となく使用した正面玄関ではなく、裏手にある関係者入口から入った3年前の入社日のことはよく覚えている。ハチャメチャに緊張していたとか、初出勤でテンションが上がりすぎていたというわけでもなく、関係者入口に入ってすぐの光景にギョッとしたからである。

時は2ヶ月ほど流れて6月。週刊少年チャンピオン編集部に配属されることが決まった。爆速で流れていく時間の中で色々なことを任せられる際、“量”の大切さを学んだ。次号予告のページやプレゼントページなどの記事ページなどを作成する際、新人である自分のアイデアなどが一発採用されることは滅多になく、先輩からのダメ出しを何度も受けてようやくGOが出ることが当たり前であった。そんなトライ&エラーを繰り返すうちに、とにかく数を出すことこそが何も持っていない自分にとっては最適解だと気付かされた。
それは今現在、作家さんと話す時だったり取材先に飛び入りアポを取るときなど、あらゆる場面で活かされていると感じる。

数を出す、に通ずることだが持ち物も段々と多くなっていった。例えばアナログ原稿の作家さんを担当させていただくことに決まった最初の打ち合わせで、原稿を受け取るために持っていった原稿カバンの中には「受け取った原稿を受けとるための封筒1枚」しか入っていなかった。今ではそれに加え「上記の封筒がダメになった時用の予備封筒」「急な雨で原稿が濡れないためのビニール袋」「サインペン赤・黒の太さ違い」「サイン色紙」「万が一原稿カバンを紛失した際の、私の連絡先を記入した紙」「クリアファイル」が常備されている。それらは使われることはほぼない。ただ、そのほぼをすり抜けた時のために備えてある。備えあって憂いなし、使われる機会がなくてもトラブルがなかったということで嬉しいのである。

さて、冒頭に戻る。快晴だったあの日、入口横の傘立てには大量の傘が置いてあったのである。絶対に雨が降らないであろう晴れの日に、40本はあったと思う(社員数から考えると異常であると感じた。)。新人の私にとっては異様な光景だったそれは、紙を扱う多くの社員のもしもに備えたものだったと今なら分かるし、今では私も常に一本予備傘を置くようにしている。(同時に、単に傘を持ってきたことを忘れている人がたくさんいるだけという可能性が何度も頭をよぎったが、秋田書店社員名誉のため無視することとする。)

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田中 良樹 2021年4月 入社
同年6月 週刊少年チャンピオン編集部 配属
幼いころから漫画が大好きで漫画に携わる仕事にしか就きたくなかった大学生時代。
就活先は出版社数社と、保険としての公務員試験のみだった。幸運なことに秋田書店に入ることができ、今現在に至る。