本当は君たちが一番偉い

秋田書店や漫画編集職を志望される就活生の皆さんに向けて、参考になるような文章をお願いします…とのご依頼だったのですが、何を隠そう自分自身は、新卒で秋田書店を受けた時に最終面接で不合格になってしまったのです(トホホ…(;^_^A)。それからウン年後、週チャン公式アカウントと僕ヤバ公式アカウントを見て中途採用に応募したところ、ありがたい事に採用していただいて今に至ります。こんな自分が就活にお役立ちなアドバイスができるだろうか、いやできない…(反語)ということで、先輩からいただいた、今でも心に残っている言葉のうちの一つについて書こうと思います。


時は遡り、「BEASTARS」「六道の悪女たち」「覚悟のススメ」…学生時代からの憧れだった秋田書店に落ちてからというもの、ソファーと一体化するぐらいグオオオオと泣いて、泣いて、泣きました…。「こりゃあマズいぞ」と最後の力を振り絞って就活に挑み、幸いなことにとある編集プロダクションに拾っていただき、少年漫画の編集部に出向することになりました。しかし、憧れの漫画編集職に就けたものの、やはりヘマをしまくるわベテランの先輩もいる打ち合わせでしどろもどろだわで落ち込んでいたところ、飲み会で寡黙な先輩が「これは、俺も先輩に昔言われたことなんだけど…」とポツリ。
「俺たち編集の中で、新入りの君たちが最も読者に近いんだから、本当は君たちが一番偉い。自分の考えていることに自信を持った方が良いよ」と…。
それを聞いた当時の自分は、た、確かに…!!!と目からウロコが落ちまくったのでした。


それから、さらに6年ぐらいの月日が経ち、本当に色々な方のお世話になり、素晴らしい経験を沢山させていただきました。
とても面白くて大好きな話題作の担当になり、誰よりも先にそのネームを読めたこと。
お声がけした作家さんが描いてくださった作品がヒットし、アニメ化していただいたこと。
作品の打ち合わせのため、作家さんと下ネタについて一切茶化さず真剣に語り合ったこと。
全て、読者を楽しませようと身を削って頑張っている作家さんのおかげです。


漫画が生まれるところをとても近くで見させていただいて実感するのは、「漫画を描き続けるのは途方もなく大変」という事です。物語を考え、この世にいないキャラクターを人間であるかのように創り、シーンをどの順番で見せるか考え、キャラをどこに配置するかカメラを意識して、コマ一つ一つに絵を描く。これらを基本的には一人でやらなきゃいけない。そんな作家さんに対して、編集者の私は別に専門の資格も持っていない、大学で漫画専門の授業を受けてきたわけではない。そんな自分が、人生や生活をかけて漫画を描いている方に対して、ああだこうだ言う。本当に恐ろしい事です。
では、マンガを何も描けない自分の身でも数少ないできることは何なのか。
それは、「作家さんと社会を繋ぐ一番最初の読者として、作品を受け取ること」なんじゃないか…と改めて、あの時の先輩の言葉を思い出すのです。


編集がネームをいただく時、それは作家さんが自らの内面で精魂込めて練り上げた作品が初めて外界の空気に触れる瞬間です。作家さんは面白いと思っていても、やはり不安だと思います。もちろん、面白かったところ、好きだったところをを全力でお伝えします。でも、時には構成の仕方や社会の文脈などで、意図とは違う受け取られ方をしてしまうかもしれない…など、読者としての懸念をお伝えしなくてはいけないことも多々あります。


この仕事は漫画のことばかり考えることができて本当に楽しいし、頑張っている作家さんを間近でずっと見ているから、純粋な「読者」だったころの自分をつい忘れてしまいます。でも、漫画は「読者」を夢中にさせなくてはいけません。
そして、読者は様々です。
校則も厳しく家では親が喧嘩をしており逃げ場が欲しい高校生、珍しいスイーツを研究するためパティスリーとビストロの仕事を掛け持ちしているパティシエ(お笑い芸人にガチ恋中)、家族とお酒が大好きで物価高に対抗するため投資を始めた母親……。
皆、漫画は好きだけど、漫画以外の夢や、漫画のみでは癒せない悩みを抱いています。そんな頑張っている人々を一瞬でもワクワクさせるために編集者としてできること、それは、漫画が最優先の人生を選んだ人を支え、漫画が第一ではない人々にどう漫画を届けていくか、を読者としての愛と視点を忘れず考え続けることなんじゃないか…と未熟ながら考えています。


これを読んでくださっている就活生の皆さんも、不安ではち切れそうだとは思いますが、漫画を読んでいた時の自分がどんな事で悩んでいたか、興奮したか、嬉しかったかを大事にしてほしいです。その記憶が、誰かを励ますような漫画を作るための手助けにきっとなるはずです。

O.Y. 2025年6月 入社
同年 週刊少年チャンピオン編集部 配属
東京都出身。
大学を卒業してから7年間お世話になった編集プロダクションと少年漫画誌の編集部を離れ、
秋田書店に転職しました。あらゆる方々との出会いとご縁に助けられている人生です。